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ハログ

文系学徒

Beat it①

先日、とあるビートボクサーと対談する機会があった

 

と書くと、いかにも大物で超有名でyoutubeとかにガンガン動画をアップしてガンガン金稼いでウハウハ大儲けしてギャンギャン女をはべらしてもう金も地位も女も皆充実しててサイコ~~~~~~みたいなビートボクサーと、いかにも雑誌や新聞でよくある足を組んで腕をまくって髪を逆立たせて心頭滅却して行われる対談、サミット、インタビューといった類の対話を想像するだろうが違う

 

彼は僕の友達で、中学時代一緒だった男である

 

そして対談の場というのはライン通話である

 

 

 

遡ること夜の11時、僕は来るべき日に備えて英語の勉強をしていた。構文を理解し、単語の意味を推測し、どうしてもわからない語はサーチして頭に叩き込み、ペンを走らせ、構文をとり、単語を推測し、単語をサーチし、走らせ、とり推測サー走と推サ走と推サ走ヴヴヴヴヴヴと推サ走と推サヴヴヴヴヴヴヴヴヴ走と推サ走と推サ走とヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ推サ走と推サ走あーーーうっせえなんだよ

 

普段沈黙を決め込んでいる僕のスマフォが、その時は珍しく自己主張していた

 

確認してみると、中学時代の友達を集めたグループが動いていた。どうやら通話しているらしい

 

ちらりとメンバーを見た

 

 

3人だった

 

 

 

 

すくねえ

 

 

 

救いようもなくすくねえ

 

どうする…俺も彼らに加わるか、いやしかしもう夜遅くだ、変に通話して家族を起こしてしまってはまずい、だがもう英語の勉強には飽き飽きしていた頃だここらで休憩がてら話すのも悪くはないか

 

結局僕はトークに混ざる決断を下した

 

ここでのトーク参加というのは重要である、恐らく彼らは人の集まらないトークに煮え切らない思いを抱いているだろう、そうなると会話も煮え切らずに悶々と無為にトークしていることは想像に難くない。彼らはこの陰鬱な空気を変える「救世主」、そう文字通りこのトークを救う存在を求めているに違いない

 

そこで僕が入る。大いに期待されるだろう、「桧山ならこの状況を変えてくれる」そう誰しもが思っているだろう。逆に言えば、救えなければ「お前何のためにトークに参加したの」と思われてしまう

 

 

震える手で「参加する」のボタンを押す

 

 

 

これは勝負だ

 

 ヒーローとなるか、ピエロとなるか

 

 

 

 

 

 

「ん?誰か入った!?えっ誰!?あっ桧山かーー!!」

 

 

 

このような応対を想定していた

 

しかし奴らは一枚上手だった

 

彼らが返した応対、突如前触れもなく参加した不審者への応対は

 

 

 

「………」

 

 

「………………………………………………」

 

 

無だった

 

嘘だろ

 

僕は事態の深刻さを悟った、せめてなんか応対してくれよ、いや違うこれは俺が入ったことに気づいていないだけか

 

 

 こんなことでひるむ僕ではない、僕はこの無の間、いかにトークを盛り上げるかを思考していた

 

 

ここで彼らについて少し補足しておく。彼らは皆同じ工科系高校、いわゆる工業高校というやつの生徒である。めでたいことに3人共皆すでに就職が決まっている

 

 

僕は受験組なので絶賛勉強中なのだが、彼らは残りの高校生活をどう謳歌するかを考えているのだ。そこを勘違いしてはいけない

 

間違えても「ウィトゲンシュタインっていんじゃん?あいつの考えた言語ゲームって言葉の響きマジ良くね?」といった語感事情や「枕草子ってあんじゃん?あの第八段の五行目のあの係り結びの法則、あれ腹立つよなー気づかんよなー」といった古漢事情の話題はしてはいけないのだ

 

 

さあそのことを確認してもうじき30秒、もうそろそろ気づくだろうあっ今「誰か入ってる」って言ったな気づいたなさあどうするお前たちはどう僕に対応するさあ見せてみろさあさあさあさ

 

 

 

 

「やっほーこんばんは」

 

 

 

 

 

えっ

 

何このテンションの低さ

 

予想をはるかに下回る空気の悪さだった

 

まるで

 

すでに希望を捨てたかのような

 

このままこの淀んだ空気で腐っていくことを受け入れてしまったかのような

 

 

 

そうか

 

俺は救世主としてみられていないんだな

 

 

 

待ってろよいま救ってやるからな俺のこのなけなしのトーク力でお前たちのムードをアゲアゲあげぽよにしてやる

 

こうして戦いの火蓋が切って落とされた

 

(②に続きます)